【のべらっくす】お腹に落し物

恒例の「のべらっくす」に、今回も参加したいと思います。

管理人さま、毎月ありがとうございます。テーマは「お菓子」です。

【第4回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」

 

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お腹に落し物

 明かりを落とした、薄暗い部屋の隅。ベッドに寝そべる私のお腹の上を、桃色の飴玉が転がっていく。お腹の頂点から、脂肪がつくる段差に引っかかりながら下腹部へ。

「やった。階段腹コース。ホールインワン

 飴玉が、私のおへそのくぼみに転がり落ちたのを見て、隣で上半身だけ起こした隆史が、うれしそうな声を上げた。隆史の20歳らしい細身の体が、劣等感を刺激する。

「やめてよ。私のお腹で遊ぶの」

「いいじゃん。由美。俺、腹フェチなんだ。付き合うときも言っただろ、たまんないよ」

 私は体重80㌔。研究を言い訳に不摂生を重ねた32歳。主に間食のスナック菓子で、たるんだお腹はまるで中高年の親父だ。大学の講師と学生の関係から、恋人同士になった夜。案の定、隆史は私の体を見て笑った。 

「三段腹どころじゃないな。まるで蛇腹、は言い過ぎか。そう階段腹だ」。

しかし、たるんだお腹が大好きと言うのだから驚いた。

 

 半年前のことを思い出していた私のおへそから、隆史が飴玉をつまみ上げ、自分の口に放り込む。

「次はなんだか分かる?」

 隆史が愛らしい熊の形をした容器をひっくり返す。

 蜂蜜かな。ひやりとした感触を予想して待っていると、ほのかに温かい、とろみのある茶色い液体が流れ出してきた。隆史が指先につけて、私の口元に差し入れる。

 甘い。チョコレートだ。

 あふれだした欲望のように、チョコレートがとろとろと私のお腹に滴り落ちて、段差にたまっていく。

 隆史が、満足げに顔を寄せてなめた。

 

「ねえ、隆史。私のお腹が階段腹じゃなくなったら、いや?」

 隆史が目を上げる。

「ダイエットでもするの?何度も言ってるけど、俺は今の由美のままがいい」

「うーん。そういうことじゃあ、無いんだけど。もっと現実味があるというか」

「由美にとって、ダイエットは遠い夢か」

 くっくと笑う隆史の頭に、手をあてる。

「私ね、妊娠したの。このままだと、お腹は段差がなくなるくらい膨らんじゃう。ねえ、うれしい?」

 隆史が、とまどったような表情を浮かべる。お腹の上では、冷えかけたチョコレートが私の不安と同じように、じわじわ広がっていく。

 

「もういい。困らせてごめんね」

 そう、私が言おうとしたとき、隆史が私のお腹に顔を擦り付けてきた。

「俺、すげえ、うれしいよ。今のうちに階段腹、味わっとかないと」。

 隆史の目からこぼれた冷たいものが、お腹の段差に転げ落ちる。

 その液体をなめてみたら、きっとどんなお菓子よりも甘い甘いものなのだろう、となぜだか信じることができた。

 でも、なめるのは隆史の役目だから。

 私は隆史の頭に手を置いて、ゆっくりとなでるだけにした。

(了)

 

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