はてな題詠「短歌の目」に参加します。

気づくのが遅く、締め切りギリギリになってしまいましたが、

この企画に参加したいと思います。

 


今月のお題 - はてな題詠「短歌の目」

 

 

1.白

白無垢の娘の濡れた泣きぼくろ 幼き頃の声が聞こえる

 

2.チョコ

「愛してる」君の差し出す板チョコが ナイフに見える きっと気のせい

3.雪
「おいしそう 砂糖が街に降ってきた」おどけた恋の恥は雪(そそ)げず 

4.あなた
5年物   マウスパッドを買い換えた あなたの腕の跡消えぬから

5.板
安スーツすっかり板についた夏 イタイタシーと叫び飛ぶセミ

6.瓜
津波来て塩にまみれた農地でも 西瓜は育つ 張り詰めた赤

7.外
愛煙家 外階段の踊り場が難民キャンプ 空はきれいだ

8.夜
バチバチと虫が煙に 誘蛾灯 夜闇の光 心して行け

9.おでん
おでん鍋 底に羊羹(ようかん) 気づいたよ君と俺とは別の星人

10.卒業
甲子園 県大会の2回戦 友との涙が俺の卒業

止め

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【題詠blog2015】はらはらしながら、なんとか20首

引き続き、題詠blog2015をちまちまと書いています。

詠んだ数が増えてくると、

なんとなく言葉のリズムが似たものばかりできてしまったり、

ありがちな言葉を使って、すでに投稿した人の作品と似てしまったり、

いろいろと至らぬ部分が露わになってきました。

そういう発見も含めて、気楽に楽しめばいいのでしょう。

 

011:テーマ「怪」
なにもかも妖怪のせい そうならば 彼女が去ったワケも納得

012:おろか
最後の日 カレーはおろか箸もない なのに無性に カレーうどんが

013:刊
「半額」の創刊号の甘い罠 居間に未完の古城乱立

014:込
老いぬよう 心の銃に弾込めろ 散弾じゃなく 貫通弾を

015:衛

東京で 見えない傷が 増えていく 衛生兵よ 早く来てくれ

016:荒

荒川を 飛球と風が見下ろして 少年野球の夏は暮れない

017:画面

モノクロの画面に踊るチャップリン 「独裁者」は今なお消えず      

018:救
夏祭り 金魚救いのはずだった 空の水槽カーンと響く

019:靴

「革靴が汚れているね 疲れてる?」よく気づく君 すごく疲れる 

020:亜

満員の電車はまるで亜熱帯 毛が抜けるのは 進化かもしれない

 

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【題詠blog2015】ひいひい言いながら、まずは10首

はてなブログにいる優れた書き手の方々が

参加しているのを見て、下記の企画に参加してみました。

用意された100の言葉を盛り込んで、100の短歌をうたっていこうというもの。


題詠blog2015

 


トピック「短歌とて、はてなブログで詠む歌に……」 - はてなブログ

 

参加には、はてなブログには導入されなかった、トラックバック機能が

必要になるため(多分)

この機能が残されている、はてなダイアリーに投稿用ページを苦心しながら作成(野良猫の小唄)。

仕事が休みなのをいいことに、書き始めたら止まらなくなってしまった。

普段使わない頭の部分を使っている感じで、クセになりそう。

 

001:テーマ「呼」
呼び鈴を ふざけて連打 そりゃ俺も よくやったけど ガキにげんこつ

002:急

取り急ぎ、お願いしますとメール打つ 群れなす鳥が LANを飛ぶのさ

003:要
要石 抜いて崩れた 5度目のジェンガ また積み直し 無かったことに

004:栄

善、滅び 悪、栄えても 神様は善と悪とを見分けられない

005:中心
彼が死に 宙ぶらりんの 君と僕 中心点から 等距離のまま

006:婦
通勤路 古い裸婦像 常に笑み 出会った頃の 妻に似ている

007:度
君の家 グーグルマップで 眺めてる 緯度も経度も 覚えてしまった

008:ジャム

ジャムってさ 私がイチゴなら怖い 身が溶けるまで 他者と交わる

009:異
異国から 助けてくれと 声響く 手のひら大の YOUTUBE越し

010:玉
大好きな 伊万里の器に 玉子割る 今日はきっと ひよこが出る朝

【のべらっくす】お腹に落し物

恒例の「のべらっくす」に、今回も参加したいと思います。

管理人さま、毎月ありがとうございます。テーマは「お菓子」です。

【第4回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」

 

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お腹に落し物

 明かりを落とした、薄暗い部屋の隅。ベッドに寝そべる私のお腹の上を、桃色の飴玉が転がっていく。お腹の頂点から、脂肪がつくる段差に引っかかりながら下腹部へ。

「やった。階段腹コース。ホールインワン

 飴玉が、私のおへそのくぼみに転がり落ちたのを見て、隣で上半身だけ起こした隆史が、うれしそうな声を上げた。隆史の20歳らしい細身の体が、劣等感を刺激する。

「やめてよ。私のお腹で遊ぶの」

「いいじゃん。由美。俺、腹フェチなんだ。付き合うときも言っただろ、たまんないよ」

 私は体重80㌔。研究を言い訳に不摂生を重ねた32歳。主に間食のスナック菓子で、たるんだお腹はまるで中高年の親父だ。大学の講師と学生の関係から、恋人同士になった夜。案の定、隆史は私の体を見て笑った。 

「三段腹どころじゃないな。まるで蛇腹、は言い過ぎか。そう階段腹だ」。

しかし、たるんだお腹が大好きと言うのだから驚いた。

 

 半年前のことを思い出していた私のおへそから、隆史が飴玉をつまみ上げ、自分の口に放り込む。

「次はなんだか分かる?」

 隆史が愛らしい熊の形をした容器をひっくり返す。

 蜂蜜かな。ひやりとした感触を予想して待っていると、ほのかに温かい、とろみのある茶色い液体が流れ出してきた。隆史が指先につけて、私の口元に差し入れる。

 甘い。チョコレートだ。

 あふれだした欲望のように、チョコレートがとろとろと私のお腹に滴り落ちて、段差にたまっていく。

 隆史が、満足げに顔を寄せてなめた。

 

「ねえ、隆史。私のお腹が階段腹じゃなくなったら、いや?」

 隆史が目を上げる。

「ダイエットでもするの?何度も言ってるけど、俺は今の由美のままがいい」

「うーん。そういうことじゃあ、無いんだけど。もっと現実味があるというか」

「由美にとって、ダイエットは遠い夢か」

 くっくと笑う隆史の頭に、手をあてる。

「私ね、妊娠したの。このままだと、お腹は段差がなくなるくらい膨らんじゃう。ねえ、うれしい?」

 隆史が、とまどったような表情を浮かべる。お腹の上では、冷えかけたチョコレートが私の不安と同じように、じわじわ広がっていく。

 

「もういい。困らせてごめんね」

 そう、私が言おうとしたとき、隆史が私のお腹に顔を擦り付けてきた。

「俺、すげえ、うれしいよ。今のうちに階段腹、味わっとかないと」。

 隆史の目からこぼれた冷たいものが、お腹の段差に転げ落ちる。

 その液体をなめてみたら、きっとどんなお菓子よりも甘い甘いものなのだろう、となぜだか信じることができた。

 でも、なめるのは隆史の役目だから。

 私は隆史の頭に手を置いて、ゆっくりとなでるだけにした。

(了)

 

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【のべらっくす】クリスマスのばかやろう

 

前回に引き続き、参加したいと思います。

テーマは「クリスマス・年末年始行事」。2687文字です。

 


【第3回】短編小説の集い 投稿作品一覧 - 短編小説の集い「のべらっくす」

 

クリスマスのばかやろう

 

「ケナゲさんから、今年も予約があったよ」

 クリスマス・イブ。

 東京・麻布十番のフレンチレストラン「ブラッセリーK」の従業員たちの間で、毎年話題になる客がいる。ケナゲさんは、見た目は30代後半、身長180センチほどのすらりとした体型で、ダブルのスーツを着こなしている。カップルで満席の店内でも、彼の状況を知らなければ、決して浮くことのない紳士然としたイケメンだ。

 

 ケナゲさんは、毎年イブの夜に2人分の予約を入れてくる。来店すると、テーブルの上に真っ赤なバラの花束を置いて。いかにも愛する恋人に、情熱的なプロポーズを決めそうな風情で待っている。大通りに面した店の窓からは、緑・赤・黄のライトが輝くクリスマス仕様の東京タワーが間近に見える。

 

 厨房では、愛し合う二人がそろうのを、当店自慢の料理たちが今や遅しと待っている。

なのになのに。来ないのだ。ケナゲさんのテーブルには愛する彼女(あくまで従業員の空想だが)は、一向に姿を現さない。そんな悲劇も1度だけなら「イブにかわいそうなイケメンがいたね」といっとき話題になるだけだっただろう。

 

 しかし、ケナゲさんの「一人きりのイブ」は、もう4年も続いている。 予約を入れては、待ちぼうけ、の繰り返し。

 

 「本当に誰かを待っているのか」 「もしかして、妄想に取り付かれた『変な人』なんじゃない」。さまざまな憶測が飛び交ってきた。ともかく、20席ほどがすべてカップルで埋まる店内で一人、何時間も待ち続ける気持ちは察するに余りある。「ぼっちイブ」の最終形、マゾ的とも思える。

 

 予約のときには「林田」と名乗っているが、見ていて切なくなる健気な様子に「ケナゲさん」のあだなは、すっかり定着してしまった。従業員はもちろん平静を装ってはいるが、それとなく好奇と疑惑の視線をケナゲさんに向けてしまうのは、無理からぬことだった。

 

 そして今年。5年目のクリスマス・イブの夜。

「ブラッセリーK」に務める大野京子がレジ横に立っていると、入り口からケナゲさんが入ってきた。「来たー!」と心中で叫んでしまう。

 

 京子がケナゲさんと会うのは、これで5回目。つまり京子もまた、28歳までの5年間のクリスマス・イブを良い人と過ごすこともなく、仕事で潰してきたのだった。彼氏がいる他の従業員に「私、予定がないから」と宣言して。率先してシフトに入って。親切な先輩のふりをして。

 

 クリスマスのばかやろう。

 

 本当は私だって、彼氏がいれば一緒に過ごしたい。でも、春に始まった恋も、毎年クリスマスにはすっかり溶けきっているのだ。

 

 テーブルに案内すると、ケナゲさんは例年と同じように「人を待ってるんで、来たら料理を運んでください」と言った。2人分のコース、合計2万6千円なり。多分、食べられることのない料理。

 

 案内を終えると、フロアの隅に立っている同い年の従業員、吉田友美と目があった。 彼女も、ケナゲさんの動向が気になっているようだ。友美に近づき、話しかける。 「今年も『人を待ってる』だってさ」 。京子の報告を聞いて、客席からは見えない柱の陰で、友美がべえっと舌を出す。「バカな客。毎年お金を無駄にしてさ。そんなら、料理代を私らに寄付しろっての」

 

 口が悪い友美は私の同志だ。 数年前、友美を悲劇が襲った。

「立てないくらいの風邪」を理由に、彼氏からクリスマス・イブのデートをドタキャンされた。友美が不審に思い、彼氏の部屋に合鍵で入ってみると、サンタとトナカイよろしく、彼氏が見知らぬ裸の女の上に馬乗りになっていた。(あ、サンタはトナカイにソリを引かせてるだけか)

 

 呆然とする友美に、彼氏が女の腰をつかみながら発した一言。

「メリークリスマス」

を彼女は、生涯忘れることがないだろうと言う。

以来、友美はクリスマス・イブには怠ることなく、京子とともに仕事に励んでいる。

 

 ケナゲさんは、水だけを飲んで、ぼんやりと夜景を眺めている。にぎわう店内。毎年のこととはいえ一人で緊張しているのか、ケナゲさんのコップの水かさはすぐ減っていく。

 

 友美はケナゲさんを「怪しい人」と思っているようで、あまり近寄らない。自然、京子が水を注ぎに行くことが多くなる。 京子は水差しを手に、テーブルに近づいた。ケナゲさんが見つめる先では、東京タワーが相変わらず色とりどりのライトを光らせている。

 

 ぽつりとケナゲさんが言葉を発したのは、京子がコップに水を注ぎ終えようか、というタイミングだった。

「東京タワーとクリスマスは、切っても切れない縁があるんです」

京子ははっとして、言葉を返していた。

「それは、その、赤と白で塗り分けられているからですか」

ケナゲさんは、ゆっくりと首を振る。

「つまんないことなんですよ」と前置きをして。

「東京タワーが初めて一般公開されたのが56年前。1958年の12月24日なんです。僕のおじいちゃんがね、どうしても見たいって長蛇の列に並んで。その間に病院でおばあちゃんが、僕の母親を生んだんだって」

ケナゲさんは一拍置いて、自嘲気味に口元をほころばせる。

「おばあちゃんから、いつも『あんたは女を裏切るような男になっちゃだめ』って言われてたなあ」

 

 笑うと、少し若く見える。30代前半くらい?

「ごめん。話し相手がいないと、うんちくばかり思い出してしまって」

京子はくすりと笑った。

「ワインはいかがですか?」

ケナゲさんは、手を小さく振った。

「いえ、僕は許しを待っている身だから」。

「許し? それはキリスト教的な……例えば神様の?」

 

 京子はクリスマスにあまりに場違いな「許し」の意味が分からず、思わず聞いてしまった。客の身の上に踏み込むことは、普段は決してしないことなのだが。

「いえ、そうじゃありません。人からの許しを待っているんです」

ケナゲさんは、ふうとため息をついた。

「まあ、寛容な神様なら、もっと早く許してくれたのかもしれませんけど。僕はかつて、それだけの大きな過ちを犯してしまった」

ケナゲさんの目元に、うっすらと涙が浮かぶ。 慰めの言葉をかけようとしたとき、京子の隣に誰かが立った。

 

 振り返ると、前菜の皿を手にした友美だった。 5年間、ケナゲさんのテーブルに、一度も運ばれることのなかった料理だ。

なぜ? まさか、待ち人がついにやってきたのか。

京子は思わず、店内に目を走らせてしまう。変わった様子はない。

 

 友美は静かに二人分の前菜の皿をテーブルに置くと、 「お食事の邪魔になりますので」 と言った。空になった腕で、テーブルの上の花束を抱きしめるようにすくい上げた。

そして、友美は小さくつぶやいた。

「5年間も。毎年来てんじゃねえよ。ばかやろう」

 

 クリスマスツリーの先端で輝く星のような笑顔が、不安げだったケナゲさんの顔に広がった。

ああそうか。ケナゲさんは友美に、クリスマス・イブの過ちを無言で謝り続けていたのだ。

 

 来年のイブ、ケナゲさんは店に来ないだろう。そして友美も。

ああ、もう。クリスマスのばかやろう。

 

(了)

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ロックな魂に触れてきた。


12/8(月)開催!映画『日々ロック』公開記念。入江監督のROCKな映画魂に迫る! | シナリオセンター

 

表参道にあるシナリオ・センターで開かれた座談会を聞きに行った。

ここは民間のシナリオ学校なのだが、外部の人間も聴講できるイベントをちょくちょく開いている(有料だが)。

今回の主役は、映画「日々ロック」を公開したばかりの入江悠監督だ。

代表作「サイタマノラッパー」(huluでシリーズ3作をすべて見ることができる)が好きで、ぜひ話を聞いてみたいと思った。

 

脚本も撮影もこなすだけあって、文章方面での創作にも生かせそうな話が

多かったので、メモ代わりに記録しておこうと思う。

 

▽脚本執筆では、主人公のボトム(どん底)をつくることを意識している。どん底の状況に登場人物を落とし込むことで、這い上がる様を表現できる。

▽食べ物を映画に出すのが好き。映像やストーリーに血を通わせることができる。「日々ロック」でも、銘菓「ひよ子」が重要な意味を持って登場している。

▽書いたシナリオは、印刷して声に出して読むようにしている。文章としては良くても声に出すと、うまく流れないこともある。長く、説明的なセリフに気づくこともできる。

▽映画には、批評性を持たせたい。

▽「日々ロック」では、登場人物が成長しない漫然としたコンサートシーンは意味がない、と考えた。歌うことで、主人公たちに何かが起きないといけない。それはアクション映画における、アクションシーンのようなものだ。その戦いを切り抜けることで、登場人物が成長や変化を見せてこそ、物語が動いていく。

▽主人公が歌う楽曲も、成長にしたがって次第に中身が深まっていくよう、歌詞を一曲一曲考え、ストーリーを構成した。

▽本との出会いは一期一会だと思っている。欲しいと思ったら、買っておく。

 

ほかにも、ラストシーンが決まるまでのボツ案といった、ざっくばらんな話がかなりあった。

ロック音楽を扱った映画は、ラストに盛り上がるコンサートシーン(舞台上とは限らないが)を持ってこざるを得ず、大規模フェスから小さなライブハウスなど、さまざまなシチュエーションがやりつくされている。

先行作品と差別化しようと考えつくしたなかには「富士山頂で演奏する」というアイデアも。実際に富士山にもロケハンしに行ったが、現地で調査したところ、想像以上の日数と装備が必要だとがわかり、あきらめたとのこと。

映画が完成するまでに尽くした創意工夫がよくわかり、面白くも刺激になりました。

 

 

「のべらっくす」に参加します。

【第2回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - 短編小説の集い「のべらっくす」

 

面白い取り組みを見つけたので、参加しようと思います。

テーマは「星」。4602文字です。

 

「10万キロの彼方から」

 会見場の記者席から、まるで星々がきらめくように、一斉に無数のフラッシュがたかれた。

 きれいだな。

 そんな風に思ったのは、これから始まる記者会見からの現実逃避なのかもしれない。舞台袖でウルトラパワー社の広報部員、園田翔子は壇上をじっと見ていた。

 壇上に出て来たのは、携帯電話から建設会社まで数百社を傘下に収めるウルトラパワー社の創業者、鴨志田豪蔵だ。黒々と焼けた肌からは、55歳とは思えぬ精気がみなぎり、周りに陽炎でも発生しそうだ。

 鴨志田がマイクをにぎる。

 「10兆円をかけた夢のプロジェクトが、ついに完成を迎えます。今年2050年をもって、日本の宇宙開発は劇的に変わる」

 鴨志田の頭上に「宇宙エレベーター完成予想図」という文字の巨大ホログラムが表示される。

 すぐさま空中に、映像が現れる。宇宙空間から垂れ下がった長大なケーブルが、海上に浮かぶドーム球場のような建造物につながっている。リニア新幹線の先頭車両を縦にしたような昇降機が、ケーブルを伝って行き来している。

 翔子の隣で、同じく広報部員の広野太陽が、両手を合わせて祈りのポーズをとる。

「頼むぜ、社長。今日はワンマンを押さえてくれよ」

「大事なのは、不条理をこらえる忍耐ですよ。広野さん。忍耐!」

「俺が切れそうになったら……そのときは頼む!」

 翔子は苦笑いしてしまう。広野は、理屈に合わないことは、許せないたちだ。

 翔子より5つ年上の33歳。もともとは先端建築の技術者だ。宇宙エレベーターの建設が進むにつれて、広報部にも専門知識をもつ人材が必要になり、2年前に異動してきた。畑違いの部署に来たのに、持ち前の熱さは衰えることがない。

 壇上では、鴨志田が話し続けている。招待客の科学技術庁長官もいるのに、一向に話をふる気配がない。

 「宇宙エレベーターの完成。それは革命です。太平洋上から、わずか5日間で、上空10万キロの宇宙空間に大量の人や物資を運べるんですよ」

 鴨志田、誇らしげにほほえむ。

人工衛星や火星探査機も、エレベーターの先端から手軽に打ち出せるようになります。宇宙観光や宇宙農業など、新たな産業も次々と生まれるでしょう」

 我慢の限界を超えた広野が、胸元のマイクに伝える。

「まずは長官から祝いの言葉をもらうはずだろ!すぐ社長に話を止めさせろ!」

 司会の男が、慌てて鴨志田にメモを見せる。鴨志田は、話の腰を折られた不愉快さを一瞬顔に浮かべたあと

「ああ、そうだった。計画実現には国の力強い後押しも、いただきました」

 放置されて顔が引きつっていた長官が、慌てて一礼する。翔子がほっと息をついたのもつかの間、鴨志田が言い放つ。

「むろん、金を出したのは我が社ですけどね」

「あんにゃろ」

 壇上に飛び出そうとする広野。

「広野さん、忍耐ぃぃぃぃ」

 翔子は、慌てて広野の背中に組みついた。この会見どうなるんだろう。かすかな不安ほど、最悪な形で的中する。本当の修羅場はそれからだった。

 30分後。まだ、鴨志田の話は続いている。広野が吐き出すように言った。

「いい加減、質疑応答に移りましょう」

 最前列の大手経済紙の記者が、口火を切る。

「残すは宇宙エレベーターの初稼働の公開ですが、社長、お得意のサプライズはありませんか」

 鴨志田がしばらくあごに手をあてて考えたあと、にやりとする。

「宇宙から下がっているケーブル。あれを海上の施設につなぎ止める瞬間も、公開しましょう。宇宙と地球が初めてつながる日、ロマンがあるでしょう」

 会見場の記者たちがざわめく。

「ふざけるなあああ!」

 広野がこめかみに青筋を立てて毒づく。声が壇上に漏れたのだろう。鴨志田が、怪訝そうに舞台袖を見やった。

 

 

 会見後、翔子と広野は、大慌てで鴨志田を追いかけた。重役フロアの廊下。周りを囲む秘書たちをかき分け、何とか隣に並ぶ。

 広野が顔を鴨志田の耳に近づけて言う。

「社長、ケーブルをつなぐ瞬間を公開だなんて、無理です!撤回の広報文を出しましょう!」

 鴨志田は顔を向けもしない。

「釣り針に魚を引っかけるようなもんだろ。撤回などすれば、私の有言実行のイメージに傷がつく」

「宇宙空間からの長さ10万キロのケーブルですよ。繊細な作業なんです。接続は無風で、海が穏やかな日にしかできません。記者を集めた日に、都合良く好条件がそろうとは思えません」

 鴨志田が、猛禽のような鋭い目で、翔子と広野に初めて目を向けた。

「それを何とかするのが、広報部員の仕事だろ!精鋭を集めたつもりだったが、見込み違いのようだな」

 鴨志田が二人を振り切るように、足を速めて去っていった。

 

 

 ケーブル接続の公開日。案の定、太平洋は、接近した台風の影響で荒れ狂っていた。

 野球ドームを、全方向に2〜3倍大きくしたような巨大な海上施設の一角。マスコミ向けの待機室には、記者やカメラマンがひしめいていた。

 一向に収まらない雨と風。記者団から、非難の声があがる。

「現場中継もできない、ケーブル接続の見通しも立たない。太平洋上にまで呼んでおいて、手ぶらで帰れなんて言わないですよね」

 翔子が頭を下げる。

「すみません。台風はもう少しで通過します。あと少しですから」

「さっきから待ち続けてるんだよ!」

 翔子が肩を震わせて、うつむく。そのとき、胸ポケットの携帯が震え始めた。着信音は古いディズニー映画の主題歌だった「星に願いを」。

 宇宙エレベーターの無事な完成を祈って、広報部に来たときに設定した。広野には「子供っぽい」とからかわれたが、翔子はゲン担ぎにこだわるタイプだった。しかし今は、その甘い調べがうらめしい。

 どうせ、マスコミから苦情を受けた本社からの「お小言」だろう。早く出ないと……。でも、今携帯に出れば、周りの記者団の怒りに油を注ぐことになりかねない。

「忍耐、忍耐」

 翔子は心の中で何度も唱えた。なんだか頭の中がぐるぐるしてくる。着信音も鳴り止まない。

 隣では広野までもが

星に願いを。星に願いを」

 とつぶやき始めた。何か考えているようだが、混乱しているのかもしれない。

 ああ、もうだめかも……。すると突然、広野が記者団の前に進み出た。大声で話し始める。

「みなさん、とにかく雲間さえ見えれば、満足ゆく映像が撮れるようにします」

 翔子が、ぽかんと口を開けて広野の方を見る。記者がどなる。

「雲だけ少々晴れたって……天気予報は海の荒れは当分おさまらんと言ってるぞ!」

 広野が「大丈夫です」と繰り返すのを見ていると、翔子の心も不思議と落ち着いてきた。

 窓の外が、薄暗くなり始めた。待機室では、待ちくたびれた記者団が床に座り込んでいる。まるで火薬庫だ。いつ記者たちの不満が大爆発するか。

 窓の外を眺めていた翔子の視界に、真っ赤な夕焼けが現れた。まだ海は荒れ模様だが、雲が途切れ始めたのだ。

 広野も気づいたようだ。大声で呼びかける。

「皆さん、外に出てください」

 広野と翔子のあとに、記者団がぞろぞろとついてくる。

 翔子、隣を歩く広野に小声で尋ねる。

「どうするんですか、広野さん」

「宇宙空間の工事班は、俺の古巣だ。もう話はつけてある」

「話って、何のですか」

「記者サマを驚かす、宇宙ショーだ」

 

 

 ドーム状に膨らんだ屋根の上、カッパのお皿のようなテラスに、記者団が出てくる。

 空から降りているケーブルの先端は、施設から30キロは離れていそうだった。本来なら波の静かな日を待って、海に浮かぶ施設を巨大な亀のようにゆっくりと引っ張って、接続作業をするのだが。

 広野がマイクで話し始める。

「皆さん、ご覧の通り、空は晴れましたが、海は荒れ、ケーブルには近づけません。よって、地上との接続は、きょうはできません」

 期待を高めていた記者団は、怒号をあげる。しかし、広野は自信に満ちた様子を崩さない。

「その代わりに、今日は宇宙エレベーターを使った、世界初の光景をお見せします。カウントダウンを、どうぞ」

 翔子が、広野から指示された通り、大声でカウントダウンを始める。

「5、4、3」

 しらけた雰囲気の記者団の視線が痛い。

「2、1、ゼロ!」

 翔子が言い終えた瞬間、雲の途切れた夜空に、流れ星が一つ、二つ、流れる。記者団がざわつき始める。

 流れ星は次第に数が増し、光の筋が次から次へと夜空を横切っていく。まるで、星のシャワーのようだった。

 広野が記者団に語りかける。

「上空10万キロの彼方。宇宙エレベーターの最上部から、小さな金属片をまいてもらっています。金属片は大気圏で燃え尽きるまで、強い光を放ちます」

 広野が夜空を手で示す。

「人類史上初めての、人工の流星群です」

 記者団がどよめき、テラスの端っこまでカメラを運び出していく。

 広野が右手の親指を、空に向けて突き上げる。翔子は笑顔がこぼれてしまう。

「じゃあ、量を増やして、もう一度まきます。カウントダウンいきましょう」

 翔子が呼びかけると、今度は記者団からも「5、4、3」と声が上がった。

 

 

 2ヶ月が過ぎ、初稼働の公開日。海は穏やかだった。

 宇宙から降りてきたケーブルは、しっかりと施設の中心につながっている。記者を呼び集めたあの日から、実際に条件が整い、接続作業ができたのは実に1ヶ月もあとのことだった。公開なんて土台、無理な話だったのだ。

 ケーブルを、昇降機が行き来している。歴史的な初稼働の公開も、盛況だった。映像をたっぷりと撮り終えたカメラマンたちが、三々五々帰って行く。

 広報対応が一段落して、翔子と広野は施設のテラスに立っていた。翔子が言う。

「仕事、うまくいって本当に良かったです。特にあの流星群。魔法みたいでした」

「いや、こっちこそ感謝してる」

 広野が右手を出してくる。自然と翔子も手を合わせ、握手をする。

「園田が忍耐強く、記者対応してくれたからさ。あのときも、園田が携帯にとっとと、出ちゃうような奴だったら、打開策、思いつかなかったよ」

「携帯? ああ、星に願いを! それで流れ星を降らせようだなんて」

 広野さんって意外と、ロマンチストなんですね。そういうの、嫌いじゃないです。とは言わずにおいた。

 握手を終えると、広野が決まりが悪そうに、鼻の頭をかく。何だか、動きがぎこちない。

「あー、なんだ。たまには流れ星に願いをかけるってのも、いいもんだな。なんならもう一度、今、お願いしてみるか」

「え? いいですね。でも、そんなに都合よく流れるかな」

 気づけば太陽はほとんど沈み、視界いっぱいに星空が広がっている。

 広野と翔子が、それぞれ両手を合わせる。

 広野が照れ臭そうに言う。

「園田、もし、本当に流れ星がやってきたら、俺たち……」

 広野の言葉が終わらぬうちに、きらきらと夜空の片隅が輝いた。

「あっ!」

 翔子が天頂に目を向けると、さあっと、5つの流れ星が光の筋を残した。

「まだ早いっての」

 思わず口に出たらしい広野の言葉で、翔子は何となく察した。広野の思いに、乗ってあげようと思った。

「広野さん、大丈夫です。これからも二人きりで、一緒に流れ星を見ましょう」(了)